ヒモ

作品紹介

 

 臍――緒


母とのつながりは断ち切られ点になった
私は世界に飛び出したもののまだ自立できず
母に抱かれ乳を与えられ
首が据わりはじめるとあちこちと動きたくなり
手足をつかって這いだすと
近くに母あるいは父が必ずいて
彼らを見
真似して足で立とうと試みるがなかなか上手くいかず
幾度も尻餅をつき
だんだんと要領が分かり立ち上がると
視野が広がり
もっとたくさん動きたくなる


 背――母


     すると背中に紐をつけられ――再び母と結び付けられた
私はあちこち動き回りたいのだけれど――思うような場所には行けない
        でもまあ仕方がない――母を先導しなければならないのだから


 子――胸


女の胸の両わきから
ちいさな手がでている
女の腰の両わきから
ちいさな足がでている
抱っこ紐にくるまれて
赤子はすっかり眠っている

母の背と胸と
抱かれる場所がちがうとき
滋養を与えてくれる大海なのか
自分を支えてくれる大地なのか
赤子の認識は変わるのだろうか


 子――車


母の操縦する自転車の前で後ろで
幼児たちは居眠りをしている
あまり役立ちそうにない大きさのヘルメットを揺らせ
車の振動にまったくかまうことなく
居眠りをしている
(母と共に移動することには慣れてる
(腹の中にいたときから
(母の癖は知っているのさ


 手――手


赤白帽子をかぶりながら
小学生が横断歩道を渡る
先生に誘導されながら
ぞろぞろと子の群れが移動する
信号が変わる瞬間、
走り渡ろうと飛び出した生徒が
先生に引き止められ怒られる
(きみはいま、私に食われたよ)
大魚になったつもりで私は自転車を漕ぐ


 声――耳


「ハンカチを落としましたよ」言いたくて ハンカチ落としを提案するやつ

「きみがほしい」その一言が言えなくて はないちもんめで声張り上げる


 目――目


ゴムとびに混ざって知ったこの事実 女子のみんなはブルマ履いてる

走ってる そいつの姿を窓から見 こっちに気づけと念じる少女


 思――想


本当は怖いんだけどこっくりさん きみがやるからぼくはやるのだ

教室に置かれたままの少年の上着を着てみる 乙女ははしゃぐ

ほんとうは取れるのだけど取りこぼす あの娘の投げたドッヂボール


  臍―緒
  体―体
  背―胸
  手―手
  声―耳
  目―目
  思―想
インタ―ネットでつながり
 せん―せんがつながり
 せん人と出会ったとき
 なん人と繋がり
 なん人と離れ
 なん人を忘れ
 なん人を覚え
 なん人と恋におち
 なん人を愛するだろう
 せん人と出遭ったとき


わっしょいわっしょい生きている
わっしょいわっしょい生きているものたちがうごめく

そして私はあなたが生きていることを喜ぶ
そして私はあなたが生きていたことを喜ぶ

生きることがつらいわけではない
つらいことがあったというだけだ

生きることは孤独なわけではない
孤独という概念を持ったというだけだ

生きることに意味などない
意味など関係なく生きものはうごめいている

生きることに意味が生まれる
思考するサルが「おおそうじゃ!」と驚いて笑う

 

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